『イシスの娘 –古代エジプトの女たち–』J.Tyldesley (細川晶訳/新書館)

前記事「序章」につづいて、第一章「女性のイメージ」を今日は概観してみます。

エジプトの女性たちは、古代世界で周囲の諸国(メソポタミア、ギリシャ、ローマなど)にとっても異例の存在感、異彩を放っていたよう。それくらい例外的で、古代ギリシャの賢人たちを驚かせたという。それが、私個人としては、「より古い源流を持つ国家として、前文明(石器時代など)の母系社会の特徴を残しているため、女性の立場が高かった(少なくとも男性と対等だった)のではないか・・という淡い期待とともに読み進めていくと、どうやらそうではなかったよう。少しザンネン。

けれども依然として、古代社会の例外、というのは興味深い。第一章の冒頭には、

とあります。活動的かつ自立していて、性にまつわるしきたり(女性だけを一方的に束縛するような制度)もなく、財産などの権利もほぼ男女平等だったらしい。社会階級に関わらず。そして著者が「なにより大切なこととして」という前置きで語っているのは、女性が男性に護られなくても一人で暮らす権利が認められていた、ということ。認められているということは、それが経済的にも可能であった、ということになる。これは当時の古代社会においては、そして続く中世以後のヨーロッパにおいても、確かに異例なことと言えるのでは。

ほんの最近、19世紀の例えばジェーン・オースティン作品などからも、女性たちが家父長制の「家」に縛られ父親の財産の一部のように扱われ、持参金を持って嫁に行った先ではその家に仕え夫の財産のようになる。日本でもひと昔前まで同じくだろうし、イスラム国やインドなどでは今でも?まだそのような慣習があるのでは。

最近ようやく、ジェンダー平等のために法律や諸制度・慣習が各分野で刷新されて来た。日本を含めた先進国でもせいぜいここ数十年のこと。それが、古代世界ではエジプトだけがそんなふうに、女性がイキイキと自分を生きていられる社会が実現していたという。もちろん小さな部族社会などでは、探せばそのような例はたくさんあるのでは?と思う・・それこそ、石器時代からの母系社会の名残り、なども見つかるだろうと思うけれど。

世界最古の「法律」と言われているメソポタミアの「ハムラビ法典」(BC1750年ころ)でも、後のギリシャでは更に、女性の権利への押さえつけの強さが見られるという。お金の管理や、結婚や離婚への自由な意思、外出や日常的な行動の選択などにおいて、女性は自分の思うようにならない生活を強いられていた。ギリシャの隣で、次第に大国・帝国へと発展していくローマは、いくらか自由であり、女性も娯楽を楽しむなどの自由はあったよう。けれども、結婚前の娘は父に従属し、結婚後は夫に・・という、その後長く世界に定着する父権社会の束縛はしっかりと存在していたという。

・・と読んでいくと、いかにエジプトが例外であったか、が理解できる。

余談ですが、確か日本の明治以前の社会(おそらく武家の慣習なのかな)意外に女性たちの権利が強かったと聞きます。戦国や、泰平の江戸時代なども。男性社会ではあるけれど。日本もやや「例外」だったのでしょう。そこに明治維新を経て「西洋風」が入って来て、却ってジェンダー平等指数は後退したのかもしれない。

かつてはエジプト学者たちの間で、「母権制社会からの影響」という説が仮説として立てられていたものの、今では「誤り」とされるようになっているとか。(本当かしら・・よくある、学説の揺り戻し、逆風なのでは・・)では何故、この男女平等な、女性が自由に生きられる社会が実現していたのだろうか・・というと、ナイルの賜物で圧倒的な「豊かさ」が約束された土台の上で、神としての王と、揺るぎない階級制度、それらをやんわりと受け止める市民たちの心理状態・・・故であるということのよう。

なんとなく、やはりこれは、「日本と似ている」と言えるのかもしれない。ただ、日本とエジプトは似ている部分もあるけれど(神としての王=天皇、豊かさ、野心的でない国民性など)、決定的に違う部分もある。エジプトは絶えず周囲からその豊かな国土を狙って多民族による襲来を受けていただろうし。やはり単に「食べるという点で比較的豊かだった」「神と敬う君主がいる」というだけではなく、何か秘密があるのでは。という期待を残しつつ、次の章に進みたい。

ちなみにエジプトは国力が低下する中、ギリシャから出たアレキサンダー大王に征服されてギリシャ系国家になり、その後はローマに併合される。ギリシャやローマから大量の移住者が入ったことにより、西洋風の父権性社会、ジェンダー不平等な法制度と意識が流入して、女性が生き生きと暮らす古代エジプトは終焉したそうだ。

第一章を締めくくる著者の言葉を引用しておきます。

p56

ではでは、今日はこのくらいで。

Love and Grace

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